カウラ事件と世界平和の町 歴史と見どころ Cowra 2021.07

オーストラリア東部にある小さな田舎町カウラCowra。第二次世界大戦中の日本人捕虜脱走事件「カウラ事件」が起きた場所として知られる町ですが、同時に、敵国日本を理解し世界平和への活動を実践しつづけている町でもあり、知るほどにきっとこの町が好きになると思います。戦跡以外にも、美しい日本庭園オーガニックワイナリーなど観光地としての魅力もいっぱい。この記事では、カウラ事件のあらまし観光スポット、おすすめのカフェやレストラン宿泊施設アクセスなどを紹介します。

1 シドニーの西310km、キャンベラの200km北にある田舎町

カウラCowraは、シドニーから西に310km、キャンベラから北に200kmのところにある、13,000人の小さな町です。

2 カウラの歴史

カウラ事件 Cowra Breakout

この小さな町は、第二次世界大戦中に起きた日本人捕虜脱走事件が起きたことで、その名を世に知られるようになりました。第二次世界大戦中の1944年8月5日、この町に収容されていた日本人捕虜が集団脱走を図り、日本人捕虜231名、オーストラリア人4名が亡くなったのです。

脱走兵による攻撃とオーストラリア人監視兵による反撃によって多くの命が失われ、捕虜収容所の脱走事件では、史上最多の人数が亡くなったと言われています。

日本人捕虜はなぜ成功の可能性が低いにもかかわらず脱走したのか?同調圧力が引き起こした悲劇ではないか?事件は私たちに様々な課題を投げかけてくれます。

日本ではあまり知られていない「カウラ事件」ですが、今年の夏、日本でもこの事件にまつわる作品「カウラは忘れない」という映画が上映されるとのこと。カウラ事件のことを知る日本人が触れたらと思っています。

映画の予告編
8月7日よりポレポレ東中野で上映

脱走兵に、スコーンと紅茶を

事件に関連して、地元民との遭遇における心温まるエピソードを一つご紹介します。

収容所のフェンスを突破し脱走に成功した川口進さんと仲間2人は朝10時頃、とある農場にたどり着きます。それまでは死ぬことだけしか考えていなかったのに、農家が見えたとたん、死ぬことよりも空腹であることに気づくのです。そんな彼らを見て、なんと農家の家族が脱走兵たちに「焼き立てのスコーンと紅茶」をご馳走したというのです。

もちろん、脱走兵に恐怖を感じて正当防衛をとった住民も多くいたようですが、こういった地元民の心温まる対応も少なからずあったようで、カウラの人々に感謝の気持ちが湧いてくる話ですよね。

3 カウラの観光スポット

そんなカウラの観光スポットを4つ、ご紹介します。過去を乗り越え、相互理解と世界平和を体現しつづけているこの町がきっと好きになると思います。

①カウラ日本庭園・文化センター Cowra Japanese Garden & Cultural Centre

カウラでイチオシの観光スポット。日本人であることを誇りに思える、美しい、美しい日本庭園です。

伝統的な日本の回遊式庭園で、春には桜やつつじ、秋には菊や紅葉を楽しむことができますが、オーストラリアの花崗岩やユーカリなどの植物も組み合せられており、まさに日本とオーストラリアの和解・融合を思わせる庭園です。

庭園の設計を手掛けたのは中島健(なかじま けん)氏。吉田茂や田中角栄など政財界の要人の邸宅庭園を手掛け、世界各国に日本庭園を作庭した造園家です。彼は、初めてこの地を訪問した際に「強い精神的なつながり」を感じたと言います。「日本兵と民間人の霊が、オーストラリアの田舎に再現された故国の風景を眺めることができる」「この地が慰霊をするのに最適な場所だ」と考えたそうです。2000年に彼が亡くなった際、遺灰の一部はこのカウラ日本庭園に撒かれています。

併設の文化センターには、日本の美術品が多く展示されています。中庭には枯山水庭園もあり、こちらも美しく手入れされています。

②日本人戦没者墓地 Japanese War Cemetery

カウラ事件で命を落とした日本人捕虜が眠るお墓です。庭園から3.5kmほど離れたところにあります。

ここでもカウラの人々の寛大さを示す出来事があります。

戦後、オーストラリア人墓地の一部だった日本人墓地はしばらく放置されていました。そんな折、オーストラリア人墓地を手入れしていた若者が、日本人の墓が荒れていることに気づき自主的に手入れを始めるのです。戦後の反日ムードの中、敵国であった日本兵の墓を手入れすることに抵抗する人もいたそうですが、「敵のすべてが悪い奴ではなかった」という思いから、元敵の墓も自国民たちの墓と同じように扱おうという思いに至ったと言われています。

なかなかできることではないですよね!

なお、日本人墓地は、オーストラリア政府の計らいにより日本に寄贈され、日本の領土になっています。物理的に日本に帰ることはできないけれども、法的には日本の土地に眠っているということになります。現在は、オーストラリア政府が信託地として代理清掃・管理しています。

ヴィジター インフォメーション センター Visitor Information Centre

こちらもぜひ訪れたいスポットの一つ。

この観光案内所は「カウラ事件」にまつわる資料・展示が充実しています。

ミニ博物館のような観光案内所

特におすすめなのは「ホログラムシアター」と呼ばれるミニチュア劇場。クレアClaireという地元住民の女性が当時の様子を語ってくれます(音声は英語なので、事前に事件の概要を理解しておくのがおすすめ)。

また、地元のワインや農産物も販売しています。時間の都合でワイナリーに行けなかった、という場合にとても便利です。

ドキュメンタリーから小説まで、さまざまな書籍が販売されています

④世界平和の鐘 World Peace Bell

シビック スクエア Civic Square前に設置された和鐘。東屋のような建物の中に設置されており、誰でもいつでも鳴らすことができます。

世界平和を願う「平和の鐘」は、ニューヨークの国連本部をはじめ世界20か国の首都に設置されていますが、オーストラリアにおいては、世界で唯一、首都ではなく、この小さな町カウラに設置されています。カウラが世界平和への継続した活動を行ってきたことの証と言えます。

4 おすすめのカフェ・レストラン

朝食・ランチ

観光に便利なカフェはこちら。

Rose Garden Coffee House

カウラ観光案内所の隣にありとっても便利。朝は8:00から営業しており、朝食におすすめです。

オーストラリアらしい「Smashed Avocado Breakfast」 は17ドル

Japanese Garden Café

日本庭園に併設したカフェ。入園料を払わなくても利用できます。庭園歩きに疲れたら、ちょっと休憩するのにおすすめです。朝食やランチは、地元の人で賑わっています。

  • Address: 1 Ken Nakajima Pl, Cowra NSW 2794
  • Tel: (02) 6342 5222
  • Business Hour: 月~金は09:00~、土日は08:30~

夕食

The Quarry Restaurant

少しフォーマルなレストラン。市内からは離れた森の中に立つ静かなレストランです。お洒落な夜を過ごしたい人におすすめです。このエリアでは夜に営業している唯一のお洒落レストランなので、予約は必須です。

Imperial Hotel

メインストリートにあり、地元の家族連れでにぎわうカジュアルなレストラン。持ち帰りもできます。

そのほか、メインストリートにはパブ、アジア系レストランがたくさんあります。こだわりがなければ、食べるものには困りません。

ちなみにカウラで有名なのは地元のラム肉。メニュー選びのご参考にしてください。

5 宿泊施設

カウラにある宿泊施設は、シンプルなモーテルMOTELがほとんどです。朝食・夕食を提供しないところも多いため、飲食店が多いメインストリート沿いに宿泊すると便利です。

メインストリートからは遠くなりますが、個性的な宿泊施設もあります。

ザ シアリング シェッド カウラ The Shearing Shed Cowra 」は、羊の毛刈りをしていた小屋を改装した宿泊施設。部屋の外は農場で、牧草地で馬が草を食み、夕暮れ時にはカンガルーの姿を見ることができます。お部屋はモダンなインテリア。キッチンとランドリーがあるので、一風変わったところに数泊するならこちらがおすすめです。

6 アクセス

シドニーから行く場合

車の場合

北回り南回りの2つのルートがあり、いずれも約4時間20分かかります。

北ルートは、ブルー マウンテンBlue Mountainを経由するルート。運転距離は約310kmで4時間30分かかります。途中、世界自然遺産のブルーマウンテン地区で休憩したり、歴史のある町カーコー Carcoarに立ち寄るなど、旅路そのものを楽しめるルートです。

南を回るルートは、運転距離が405kmと長いも関わらず、所要時間は北回りとほぼ同じ4時間20分。その多くが高速道路なのが理由です。

キャンベラから行く場合

キャンベラからは、運転距離約200km、車で2時間20分です。

7 最後に おすすめの図書

最後に、カウラ事件とその後の日豪友好関係について、より深く学びたいという人におすすめの書籍をご紹介します。

観光案内所で販売しています(2021年現在20AUD)

鉄条網にかかる毛布 Blankets on the wireという書籍がイチオシです。

日豪研究プロジェクトの一環で出版された書籍で、一方の国だけを擁護するのではなく、それぞれの国の立場や文化的価値観の違いをできるだけ中立な立場で紹介しようとしている書籍です。日英併記されているのが特徴で、英語圏の方と会話をする際にもとても役立ちます。121ページ(日本語は半分)しかないので読みやすく、写真が多用されておりとても分かりやすいです。

日本で手に入るカウラ関連の映像・書籍もいくつかピックアップしました。

長い記事、読んでいただきありがとうございました。この記事を読んで、オーストラリアに、いや「カウラに行ってみたくなった~」という人が増えてくれたら嬉しいです。ではでは~!

投稿者プロフィール

Takako
一年の大半を外国人のお客様と旅をして過ごしています。旅先で感じたことなどを時々アップしています。シドニー在住。
Personalised group/self-guided travel organiser across the world. From the country on the map to the one where your new friends live.
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